鮎釣り師ガバチャのひとり言

釣りあげた鮎で仲間と酒を飲む   これ人生のユートピア!


      このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

    「火ですよ、火ぃ」
     白髪男はみんなの顔を見まわした。



    「あっ」
     浩也が声を上げる。



    「狐の送り火!」
     リエとユウコが顔を見合わせて言った。
     勇一がくわえ煙草を外し、口をポカンと開けた。



     思いついてみれば当たり前のことだった。古文書には、半円が接したところに米粒ほどの塗りつぶしが縦に並んでいた。それは間違いなく、つむじ風剛右衛門が家来に焚かせたかがり火だろう。



     暗闇の海で、友が島方面の二つのかがり火が縦に並ぶところに船を移動する。そのかがり火が縦に並んで見える状態のまま船を南進させ、和歌山城の上空に満月が乗ったところで船を止める。



     当時、和歌山城は夜中でも灯がともり明るかったのではないのか。あるいは、満月なら白光して見えたのかもしれない。



     船術に長けたつむじ風剛右衛門は、夜の海から見える四つの明るい目標物をあらかじめ想定していた。



     莫大な財宝を陸に埋めようとすれば、数人の家来を要し盗掘のリスクが高まる。海ならば財宝を家来に船に積み込ませ、暗くなるまで出航を待てばよい。後は、目的地に行って海に投げ込むだけなのだ。労せずともやがて紀ノ川の土砂が埋めてくれる。こんな楽な埋蔵方法は他にない。



     ただし、この場合でもかがり火を四カ所焚いた方法での山立てだと、関わった家来によって宝の在処がわかる。



     だから、四つの目標物の内二つは、つむじ風剛右衛門自らのみ知りうるものでなければならなかった。



     つむじ風剛右衛門は江戸時代の夜に、和歌山沖からでも確認できる陸の目標物を思案した。



     それが和歌山城と満月だったのだ。





     皆の推測はほぼ一致した。



    「ほんまに親父はそんな事しに行ったんかいなあ」
     勇一があぐらをかいて項垂れる。リエも口を真横に結んだ。



     浩也は、あの晩の目映いほどの満月をはっきり覚えていた。母と隆三があの満月を頼りに、古文書に記されている山立てをしようとしたに違いない。それに祖父から聞いた父のチャッカマン、これもかがり火に火をつけた道具に違いない。



    「あのぉ、この端にも何か書かれてますよね」
     リエが古文書を指さして訊いた。古文書の左端にミミズの這ったような文字が二行書かれている。



    「まあ、これを書いた者が財宝が盗掘されるのを牽制するために書いたものでしょうが」
      白髪男はそう言って少し口を歪めた。



    「なんて書いてあるんですか?」
     浩也が訊いた。



    「財宝に手をつけし者、剛右衛門の呪いにより末代まで地獄へと堕ちる」
     白髪男は、カチャカチャと音を立ててコーヒーをすすった。



     浩也の眉間にしわが寄る。その後ろで勇一が舌打ちをした。



    「けっ、昔の野郎がいい加減なこと書きやがってよ」
     勇一は首枕をしてプイッと寝っ転がった。



     この文章の解説をしなかったのは、白髪男が自分たちの心情を気遣ってのことだろう。 重苦しい場の雰囲気に浩也らは暫し押し黙った。白髪男は、冷めたコーヒーをわざと音を立ててすすっているようだ。



    「ただ・・・・・・」
     と、白髪男は何かに気付いた表情で腰を上げた。




     白髪男は部屋の隅の書棚を探ると小さな冊子を取り出した。
     表紙には平成十七年の旧暦と書かれてある。白髪男は忙しく捲るとある頁を開いて首を小揺すりした。



    「今年の神無月は十一月ではありませんよ。今年は旧暦の閏年(うるうどし)にあたります。閏文月(うるうふみつき)があり、神無月は例年より一月遅れの十二月上旬になります」
     白髪男は新暦と旧暦の違いや閏年をたとえて旧暦の閏文月の説明をした。



     が、浩也は直ぐに理解できない。リエや勇一も首を傾けて聞き流しているだけだ。



    「一月ずれると場所が大きく変わるんですか」
     説明が終わるのを待ちかねたように浩也が訊く。



    「多少変わりますがそんなに大きな差ではありません。計算も出来ますよ」
     白髪男は皆の顔を見渡しただけでその説明はしなかった。



    「親父らの行った日は違う日やった言うことか」
     寝ころんだまま勇一が言う。



    「断定は出来ません。古文書に書かれている神無月が、今ここで私達が特定した満月とちゃんと合っているかどうかはわりません。まあ一月二月のずれはあっても、とにかく神無月の頃には違いないでしょう」
     白髪男はそう締めくくった。



    「神無月の頃」
     と、浩也は白髪男の目をしっかりと見返した。





    ガバチャのひとり言

     つむじ風剛右衛門が考え出した「山立て」を図にすると以下のようになる。
     友が島の地の島と沖の島の隣り合う場所でかがり火を焚き、それが重なるように船を南進(図では下側)させ、和歌山城の上空に神無月の満月が乗ったところで宝を海中に放す。

    8adea368.jpg



    ポチッとヨロシクダウン
    にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
    にほんブログ村


    超燃える鮎友釣り もヨロシクグッド!

      このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

    「おそらくこれは和歌山城と満月を示しているものだと思います」
     リエだけが理解したように相槌を打つ。



      和歌山城は別名虎伏城と呼ばれている。
     それは、城全体の形が虎が伏したように見えるからだ。つまり、図の三角形は和歌山城の天守閣、その上の円は神無月の満月を示したものだという。



    「もう一つがさっぱりわかりません」
     白髪男は両手を大げさに広げた。



     天狗の鼻の先にある大小の半円は、向かって左が大きく右が小さい。正確には両方の円が接したところでやや重なっており、ひょうたんを立てに割って寝かせたとような形だ。



     白髪男はこれは友が島に違いない、というがそこで首を傾げる。



     これがね、と言って半円の交わったところに指を置いた。



    「このシミみたいなの」
     半円が接したところには米粒ほどの塗りつぶしが縦に並んでいる。



    「最初は、単なるシミだと思ったんですがね、拡大鏡で見るとどうやら意図的に描かれたもんなんですよ。これが何を示すのかさっぱりわかりません」
     と言って今度はその横の文字を指した。



    「それとこれ。二匹の狐出会うたりって書かれてます」
    「二匹の狐出会うたり」
     勇一がゆっくりと反復した。



    「これが解れば宝の埋まっている場所が明らかになります」
     浩也は息を飲んだ。ただ、何故明らかになるのかは解らなかった。



    「そ、そんなんでどうしてわかるんや」
     勇一が訊いた。



    「山立てですよ」
     白髪男がにやりとするが早いか、ぬあーっと勇一が奇声を上げた。



    「や、山立てぇ」
     と声を張り上げる勇一の横で、リエがえっと小さく言った。



    「山立てって漁師の子しか知らんかなあ」
     白髪男が口元を緩めてユウコを見る。ユウコは首を斜めに傾けるだけだ。



    「山立てって何です?」
     浩也が白髪頭に訊くと後ろから勇一が説明し始めた。が、よくわからない。



    「勇一、それじゃあわからへんわ」
     リエの言葉に勇一は口を尖らせた。



     白髪頭はやおら立ち上がると、傍にあったペン立ての中からボールペンや色鉛筆を取った。四本用意すると、ユウコに二本持たせた。



    「こうやって、自分の目の前にボールペンを一本ずつ持って前後に立てて」
     白髪男がお手本を見せるとユウコも真似た。白髪男とユウコは立ち上がって部屋の端と端に移動した。



    「いいかい、私の二本の色鉛筆が重なってひとつに見えて、なおかつユウコの二本のボールペンが重なってひとつに見えるところに立ってみなさい」
     白髪男は部屋の真ん中に座っている浩也に言った。
     浩也は言われるとおり、白髪男の鉛筆とユウコのボールペンを何度も振り返りながらうろうろと部屋の中を移動した。



    「ここです」
     と浩也は立ち止まった。



    「もう解っただろう。海で言うと君が船だよ。私の鉛筆は陸上に立つ煙突、ユウコのボールペンは二つのビルとでも思ってくれ」
     浩也は口元を緩めて頷いた。



      山立てとは、漁師が陸の目標物を頼りに船の位置を定める方法だ。



     たとえば陸の目標物を煙突とする。
     二つの煙突が重なって見える延長線は海上に一つしかない。その時、別の方向でビルとビルが重なって見えたとする。二本の煙突も重なり二つのビルも重なって見える場所は、海上にたった一点しか存在しない。



    「ワイは加太岬の木と雑賀崎の突端の岩での山立てを親父から教えてもろうてた。アワビのようけ取れるところやった。それが、開発で岬の山が削られて山立てができんようになったんやしょ。正確なGPSが出来たから言うても、結局昔から引き継いできた漁場は山立てでしか語り継がれてないんやから探すまでが一苦労なんや」
     と言って勇一は古文書を手に取った。



     古文書が山立てを表しているとすれば、和歌山城の真上に満月が乗り、同時に友が島で
    狐が出会った所に財宝が眠っていることになる。
    「でも友が島に狐なんておらんやろぉ?」
     勇一がリエに問いかける。



    「狐ったって何かを暗示してるのよ。岩とか木とか」
     リエは正座したまま背筋を伸ばして腕組みをした。



    「でも神無月って言うたら夜でしょう。夜に見えるんかな」
     ユウコが言う。
    「満月の夜やったら見えるんじゃないですか」
     浩也は勇一の方に顔を向けた。



    「無理やしょ」
     夜海に出たことのある勇一はにべもない。



    「そしたら早朝か夕方の薄暗い時じゃないの」
     ユウコが言う。



    「早朝は月は西よ。東は夕方出た時やわ」
     リエの言うとおり海から見て城は東にある。



    「おいおい明るかったらつむじ風剛右衛門(かぜのこうえもん)さまは、莫大な財宝を隠すところを地元の漁師や誰かに見られるんとちやうか。誰にも見られん暗い時やないとあかんやろぉ」
     勇一はからかうようにリエを見ると庭の方に出た。



     白髪男は腕組みをして考え込んでいる。
     勇一は煙草をくわえるとポケットをまさぐり始めた。ライターが見つからないようだ。



    「あのぉすいません、ちょっと火ぃ貸してもらえません」
     片手を切って覗く勇一をリエがにらみ返した。



    「なるほど、わかったっ!」
     白髪男は腕組みをほどくとにんまりと笑った。



     皆が白髪男に振り返る。






    ガバチャのひとり言

    和歌山城。

    江戸時代に暴れん坊将軍吉宗を輩出した名城だ。

    この城と神無月によって宝の在処は示される。

    「山立て」(やまだて)という漁師が船の位置を確認する方法によって。

    ただし、それは二匹の狐が出会ったときにだ・・・。


    c8eaad12.jpg


    「山立て」(やまだて)の解説図だよ~ん。

    f43b6099.jpg



    ポチッとヨロシクダウン
    にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
    にほんブログ村


    超燃える鮎友釣り もヨロシクグッド!

    このページのトップヘ