「おそらくこれは和歌山城と満月を示しているものだと思います」
リエだけが理解したように相槌を打つ。
和歌山城は別名虎伏城と呼ばれている。
それは、城全体の形が虎が伏したように見えるからだ。つまり、図の三角形は和歌山城の天守閣、その上の円は神無月の満月を示したものだという。
「もう一つがさっぱりわかりません」
白髪男は両手を大げさに広げた。
天狗の鼻の先にある大小の半円は、向かって左が大きく右が小さい。正確には両方の円が接したところでやや重なっており、ひょうたんを立てに割って寝かせたとような形だ。
白髪男はこれは友が島に違いない、というがそこで首を傾げる。
これがね、と言って半円の交わったところに指を置いた。
「このシミみたいなの」
半円が接したところには米粒ほどの塗りつぶしが縦に並んでいる。
「最初は、単なるシミだと思ったんですがね、拡大鏡で見るとどうやら意図的に描かれたもんなんですよ。これが何を示すのかさっぱりわかりません」
と言って今度はその横の文字を指した。
「それとこれ。二匹の狐出会うたりって書かれてます」
「二匹の狐出会うたり」
勇一がゆっくりと反復した。
「これが解れば宝の埋まっている場所が明らかになります」
浩也は息を飲んだ。ただ、何故明らかになるのかは解らなかった。
「そ、そんなんでどうしてわかるんや」
勇一が訊いた。
「山立てですよ」
白髪男がにやりとするが早いか、ぬあーっと勇一が奇声を上げた。
「や、山立てぇ」
と声を張り上げる勇一の横で、リエがえっと小さく言った。
「山立てって漁師の子しか知らんかなあ」
白髪男が口元を緩めてユウコを見る。ユウコは首を斜めに傾けるだけだ。
「山立てって何です?」
浩也が白髪頭に訊くと後ろから勇一が説明し始めた。が、よくわからない。
「勇一、それじゃあわからへんわ」
リエの言葉に勇一は口を尖らせた。
白髪頭はやおら立ち上がると、傍にあったペン立ての中からボールペンや色鉛筆を取った。四本用意すると、ユウコに二本持たせた。
「こうやって、自分の目の前にボールペンを一本ずつ持って前後に立てて」
白髪男がお手本を見せるとユウコも真似た。白髪男とユウコは立ち上がって部屋の端と端に移動した。
「いいかい、私の二本の色鉛筆が重なってひとつに見えて、なおかつユウコの二本のボールペンが重なってひとつに見えるところに立ってみなさい」
白髪男は部屋の真ん中に座っている浩也に言った。
浩也は言われるとおり、白髪男の鉛筆とユウコのボールペンを何度も振り返りながらうろうろと部屋の中を移動した。
「ここです」
と浩也は立ち止まった。
「もう解っただろう。海で言うと君が船だよ。私の鉛筆は陸上に立つ煙突、ユウコのボールペンは二つのビルとでも思ってくれ」
浩也は口元を緩めて頷いた。
山立てとは、漁師が陸の目標物を頼りに船の位置を定める方法だ。
たとえば陸の目標物を煙突とする。
二つの煙突が重なって見える延長線は海上に一つしかない。その時、別の方向でビルとビルが重なって見えたとする。二本の煙突も重なり二つのビルも重なって見える場所は、海上にたった一点しか存在しない。
「ワイは加太岬の木と雑賀崎の突端の岩での山立てを親父から教えてもろうてた。アワビのようけ取れるところやった。それが、開発で岬の山が削られて山立てができんようになったんやしょ。正確なGPSが出来たから言うても、結局昔から引き継いできた漁場は山立てでしか語り継がれてないんやから探すまでが一苦労なんや」
と言って勇一は古文書を手に取った。
古文書が山立てを表しているとすれば、和歌山城の真上に満月が乗り、同時に友が島で
狐が出会った所に財宝が眠っていることになる。
「でも友が島に狐なんておらんやろぉ?」
勇一がリエに問いかける。
「狐ったって何かを暗示してるのよ。岩とか木とか」
リエは正座したまま背筋を伸ばして腕組みをした。
「でも神無月って言うたら夜でしょう。夜に見えるんかな」
ユウコが言う。
「満月の夜やったら見えるんじゃないですか」
浩也は勇一の方に顔を向けた。
「無理やしょ」
夜海に出たことのある勇一はにべもない。
「そしたら早朝か夕方の薄暗い時じゃないの」
ユウコが言う。
「早朝は月は西よ。東は夕方出た時やわ」
リエの言うとおり海から見て城は東にある。
「おいおい明るかったらつむじ風剛右衛門(かぜのこうえもん)さまは、莫大な財宝を隠すところを地元の漁師や誰かに見られるんとちやうか。誰にも見られん暗い時やないとあかんやろぉ」
勇一はからかうようにリエを見ると庭の方に出た。
白髪男は腕組みをして考え込んでいる。
勇一は煙草をくわえるとポケットをまさぐり始めた。ライターが見つからないようだ。
「あのぉすいません、ちょっと火ぃ貸してもらえません」
片手を切って覗く勇一をリエがにらみ返した。
「なるほど、わかったっ!」
白髪男は腕組みをほどくとにんまりと笑った。
皆が白髪男に振り返る。
ガバチャのひとり言
和歌山城。
江戸時代に暴れん坊将軍吉宗を輩出した名城だ。
この城と神無月によって宝の在処は示される。
「山立て」(やまだて)という漁師が船の位置を確認する方法によって。
ただし、それは二匹の狐が出会ったときにだ・・・。
「山立て」(やまだて)の解説図だよ~ん。
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小説「神無月の頃」 その8
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黒江の通りはまるで鋸の歯のようにギザギザになっている。家が道に平行ではなく斜めに建っており庭や駐車場が三角形なのだ。
「なんか家が全部斜めに建ってますね?」
浩也は姉の背に問いかけた。
「ああ、これね。結局どうしてかはわからないみたいですよ」
専門家の研究でも結局わからないとのことだ。
大八車を止めやすいように斜めに車庫をつくったという説や、この辺りがもともと干潟で潮によく浸かったので潮が引きやすいようなつくりにしただとか、この鋸状の通りには諸説あるらしい。
姉が説明を続ける内、座席に埋もれていた勇一も体を浮かして家並みを眺めた。
「ここや、着いたで」
大きなガラスの引き戸に鈴木民芸品と白字で書かれていた。
ガラス戸越しに大きな壺や置物が所狭しと並んでいる。車はそのまま行き過ぎて、家の裏の空き地に止まった。
「ユウコォ」
車から降りると、姉は家の裏の二階に向かって声を上げた。二階のサッシが開いて若い女が顔を覗かせた。
「早かったね」
短髪でふっくらした顔の女が覗いた。
度のきつそうな黒縁の眼鏡を掛けている。姉は慣れた様子で勝手口から入った。浩也と勇一も後に続いた。
中に入ると黒っぽい作務衣を着た白髪男が居た。白髪は天然なのか縮れている。背は高くないが、二重顎に合ったふくよかな体躯で足下は素足だ。
「おおリエちゃんかすっかり大人になったなあ」
男は目尻に皺を寄せ笑顔をつくったが、直ぐに口元を結んだ。
「お父さんがほんまに大変なことになったなあ。何でも手伝えることがあったら遠慮無くユウコに言うてよ」
そう言って男は居間に三人を招いた。
ユウコがコーヒーとお菓子を持って入ってくる。姉が早速古文書の件を切り出した。
白髪男は鼈甲の眼鏡を外すと、浩也の差し出した古文書に顔を近づけじっと見入った。
「そうやなあ三十分ほど時間くれるかな。ユウコ、名手の資料館にでも連れてっておやり」
男は顔を上げるとまた眼鏡を掛けた。
三人は、ユウコの案内で近くの酒造りの資料館に行くことにした。
細い路地を五分程歩くと資料館に着いた。
「温故伝承館」と言う看板が掛かっている。
ユウコの説明では、創業百三十年の「名手酒造店」が、実際精米所として使っていたところを資料館に改造したとのことだった。
中にはいると酒製造器具や道具が所狭しと展示され、大型の精米機や酒槽がそのままの状態で残っていた。酒販用ポスターや蔵人の生活用具も展示されており、当時の生活文化がうかがえる。
勇一は、一人早足で資料館を見て回ると外に出て行った。
しばらくして浩也ら三人が資料館を出ると、なんと勇一は向かいの酒造店のテーブルで、冷や酒をあおっていた。
「あんたなあ」
姉の剣幕にも勇一は苦笑いだ。ユウコは目を丸くして複雑な表情だ。ほろ酔い加減で店員の女性と知り合いのように話している。
「なあ、親父にこの黒牛買うていっちゃろうや」
勇一がビール瓶ほどの大きさの酒瓶を掲げた。
黒牛とは名手酒造の代表酒である。
姉は急に怒った顔を緩めると、黒牛を一本購入した。隆三が無類の酒好きだったのだろう。
骨董品屋に戻ると宝の地図の解読がほぼ終わっていた。
白髪男は、四人を座敷に上げて説明を始めた。
ほろ酔いの勇一は、三人の後ろで肘をついて壁にもたれた。
古文書は江戸時代のものだった。
寛政十一年神無月の夜に、つむじ風剛右衛門(かぜのこうえもん)が自らの財宝を海に投げ入れ隠匿したと書かれてあった。古文書が正しければ、財宝は言い伝えられている友が島ではなく海の底に眠っていることになる。
「古文書に記載された金銀宝を時価に換算すると数十億円にも上ります」
「すっ、数十億円!」
と、勇一が壁にもたれた身を起こした。
「ええ、でも財宝を投げ入れた場所ははっきりとはわかりませんよ」
白髪男は古文書と自分の書いた説明の用紙をみんなの前に広げた。
古文書には簡単な図が記されてあるが、消えかかって判然としない。
見ようによっては、和歌山の海岸線を上空から見たような形にも見える。特に、向かって左に伸びた天狗の鼻のような図とその先にある大小の半円二つ。
「この天狗の鼻は和泉山地から連なった加太岬で、その先の大小の半円二つは間違いなく友が島でしょう」
白髪男は確信めいていった。
「そしたら天狗の鼻の下に平行に伸びる線は紀ノ川ですか」
浩也が言うと白髪男は頷いた。姉のリエも覗き込む。
その紀ノ川の直ぐ下には十円玉程の円が書かれており、円の真下にはそれとほぼ同じ大きさの三角形が書かれてある。
白髪男は、三角形の横に添えられた文字を指さした。
「神無月に虎の伏す、そう書かれています」
白髪男はみんなの顔を見渡した。
いつの間にか勇一が前のめりで首を突き出している。
ガバチャのひとり言
黒江の町並みは写真のような感じで家が斜めに建ってます。ボクはこれが両側にずっと続くような町並みを探したのですがなかなか見あたりませんでした。
通りすがりのおばさんに訊いたら今は少なくなったとのこと。
当時はなんらかの理由で合理的だったのでしょう。
和歌山県海南市黒江にある名手酒造店。この向かいに温故伝承館があります。
温故伝承館の中を撮影したものです。昔酒を造っていた様子がそのまま残されてます。
また、温故伝承館の中には、昔の生活用品などもたくさん展示されています。
こちらは、みしん。
これは、女性の化粧品? なのでしょうか。
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小説「神無月の頃」 その7
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三人はしばらく黙った。
近所の子供らが大声を上げながらはしゃいで走っていく。
勇一はトボトボと花壇の方に戻ってまた腰を下ろした。
「あの、笹のついた竹っていうのは?」
浩也が口を開いた。
「昔、浅場で餌の海老を捕る時にやりよったこともあるけんど今頃やるもんはおらん。あと考えられるんは海底の位置出しやな」
勇一はうつむいたまま答えた。
「海底の位置出し?」
「ああ、海に潜る所の目印として沈めとくんや」
「・・・・・・」
「で、お前その場所どこかわかったんか?」
勇一がゆっくりと顔を上げて訊いた。
「それが、全然解りません」
浩也は古文書を広げた。女が寄ってきて覗き込む。
「アネキ、学校出ちょったらなんて書いてるかわからんのか?」
言って勇一はまたうつむいた。やはり、この女は勇一の姉らしい。
姉は怪訝そうな顔で古文書に目を落とした。
「なんなんやろ、これ?」
「それがさっぱりわからないのです」
と浩也は姉の手に古文書を渡した。
古文書には小さな三角や丸、大きな半円などがミミズの這った文字に囲まれるように記されている。
「なあアネキ、知り合いとかでそんなんに詳しそうなのおれへんのか」
と勇一が顔を上げた。
「うん、黒江の鈴木ならなんとかなるかもしんないわ」
姉は独り言のように言った。
「それって友達かあ?」
勇一は煙草を取り出した。
「高校の時の同級生よ。実家が民芸品店で、お父さんは結構名の知れた鑑定士やって言ってたわ」
「そ、その方にぜひ」
と、浩也が言うと姉はしっかりと頷いた。
「早いほうがいいんでしょう。今からちょっと連絡取ってみるわ」
姉は家の中に戻っていった。
勇一は浩也に古文書を手渡すと、煙草に火をつけた。
未だ未成年のはずだが何の躊躇もない。浩也は黙ったまま目をそらすように庭を見渡した。
剪定されたつげの所々から枝が飛び出ている。いつも隆三が剪定していたのかもしれない。勇一がそんなことをすることもないのだろう。
足下にいくつか煙草の吸い殻が落ちているのは勇一のものに違いない。思う端から、勇一が煙草の吸い殻をポイ捨てした。落ちていたものと同じ吸い殻だ。
「アネキのやつ遅せーなー」
と勇一が独り言を言う。
姉が携帯を持ったまま出てきた。
「今からでもいいって言ってるけど?」
「えっ今からか」
と返す勇一の横で、浩也は首を縦に振った。
「じゃあ、今から行くわ。そうやなあ半時間ぐらいやから二時前ぐらいになると思うわ」
そう言って、姉は携帯をたたむと浩也と勇一の顔を交互に見た。
「あたしは鍵取ってくるから。勇一、出るまえに灯油缶だけ倉庫に運んどいてや」
勇一は、素直にんーとだけ答えて家の裏に消えた。
支度が出来た姉は黒の軽四を家の前に出した。
助手席に勇一が、後部座席に浩也が乗り込んだ。ボンネットにピンクの猫の縫いぐるみが置かれ、ルームミラーからは派手なウサギのアクセサリーが吊られている。甘い香水の匂いが鼻をついた。
姉の泣き疲れた顔と車内の鮮やかさとのギャップが、隆三の死の突発性を表しているようだ。勇一が煙草を取り出すと、「禁煙やで」と姉が釘を刺す。
勇一は無言で煙草をしまうと、CDデッキのボタンをさわり始めた。CDが入っていなかったのか、今度はCDケースをしきりに捲っている。
「アネキってろくなCDないなあ」
そう言って、勇一は選んだ一枚をデッキに挿入した。突然エレキの大音響が鳴った。
とっさに姉の手が伸びる。
「あんたなー、お客さんおるんやからじっとしときいや」
勇一はふてくされて座席に深く身をもたせた。
車は、密集した家に挟まれたすれ違いも出来ないほど狭い道をすいすいと進んだ。踏切を渡ると道が大きくなった。
「お前高校どこや?」
勇一が振り返って訊く。
「K校です」
「すげーお前かしこいんやなー」
「あそこって毎年東大に何人も通ってるんでしょう」
姉がデッキの音量を下げながら言った。
「来年受験なんでしょう?」
「ええ、でも・・・・・・受けません」
姉は小さな声で、「そう」とだけ言った。
「K校やったら高卒だけでも凄いやんか。なんぼでも働き口あんで」
勇一が言うと、姉もこっくりと頷いた。
三人は暫し黙った。
浩也はポケットから古文書を取り出すとまた眺めた。
母と隆三もこの古文書を何度も眺めたことだろう。そして解らずに、自分たちと同じように誰かを訪ねたのだ。父も同じく解読に奔走したはずだ。
今、自分も同じ事を繰り返している。それも、あれほど嫌いだった隆三の息子らと一緒に。
この一枚の古文書は、これまでも人を替えながら同じ行いをさせてきたに違いない。誰一人として最後までたどり着かせることなく、ただ災いだけもたらすために。
つむじ風剛右衛門の呪い、本当にそんなことがあるはずはない。
父も母も偶然不幸に巻き込まれたのだ。いや、母は生きている。友が島での大規模な捜索は行われたが、それ以外の場所に立ち寄って母はどこかで取り残されているはずだ。
浩也はそう信じて古文書を見た。
黒江は和歌山市南隣の海南市にある。
車は、国体のために整備された広い道路を進み海南市に入った。毛見のトンネルを抜けると、黒江の漆器と書かれた大きな看板が現れる。
「おっ黒江って書いちゃらあっしょ。その下なんて読むんや?」
勇一の問に「シッキ」と姉が答えた。
「シッキぃ? 何やねそれ」
首を傾げる勇一に姉は即答できず少し間を置いて、「ほら、お椀とかよ」と言った。
浩也は漆器を知っていたが、確かに漆器を勇一に言葉で理解させることは困難だ。
「へー、お椀のことシッキって言うんか。知らんかったっしょ」
勇一はお椀と聞いて興味を削がれたのか、CDケースをめくり始めた。
道が突然狭くなり、車はスピードを緩めて路地を這うように進んだ。
黒江は時代を感じさせる古い町並みだ。古くは熊野霊山への入り口と見なされ熊野古道として親しまれた。また、江戸時代には漆器の街として栄え全国に黒江の名が知られている。
「ここの漆器はもともとは根来寺からきたんやんか」
姉がさらりと言った。
「えっおじいちゃんとこの」
「そうよ、あんた小さい頃おじいちゃんから何回も聞かされてたやん」
「そうやったっけなー」
紀ノ川沿いにある根来寺は鉄砲伝来でよく知られている。この寺を豊臣秀吉が焼き討ちした時、多くの漆器職人が全国に逃げ散らばったとのことだ。
「輪島塗かて根来から逃げ延びた職人が始めたんや言うてたやん」
「へー、アネキくわしいんやな」
勇一は選んだCDを入れ替えると、座席に深くもたれた。
黒江の通りは、格子戸が張り付いた低い家が並び白い提灯が所々に吊されていた。車は歩くほどの速度になった。
「もうすぐか?」
勇一の問いに姉はウンとだけ答えて、ハンドルにしがみつくように前屈みで慎重に車を進めた。
窓外を眺めるうち、浩也は変なことに気がついた。
ガバチャのひとり言
ロケハンで和歌山市の南隣にある海南市の黒江に行ってきました。
黒江は歴史の街、漆器の街、酒造りの街、ボクの大好きな街です。
造り酒屋「黒牛」で有名な名手酒造店で温故伝承館を見て休憩しました。
店員の女性の方と会話が弾み、ボクはいつになく? 饒舌に。
振る舞われたのは写真の「甘酒」です。
原付なので酒は飲めないです、というと「製造過程でアルコールの発生する前のですから大丈夫」とのこと。
へ~、ホントかな、と。
んじゃ、とチビリチビリ。
甘~い。こりゃいけるワ。
と、しばし黒江の旅情にひたりました。
明日より、高知の両親を紀南に旅行に連れてってあげますのでアップロードお休みします。
再開は、火曜日ぐらい、かな

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小説「神無月の頃」 その6
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そこで、隆三と友子が連れだって隆栄丸に乗り込もうとするところに出会した。
隆三は5、6メートルもの長さの笹竹を船に積むところだった。
不審に思った祖母は、駆け寄ってそんな大きな笹竹を持ってこんな夕方からどこに行くのだと訊いた。
だが、いくら訊いても二人は微笑むだけで答えない。
祖母は、夜の海は危険だから止めてくれと何度も頼んだ。
「どうしても行くんなら、勇一を呼んでくるわしょ」
と、祖母はたまらず声を上げた。
「気遣いないわしょ。コーエマの呪いさえなけりゃ極楽の生活さしちゃらあ」
隆三は高笑いすると船のエンジンを駆けた。
祖母は、隆三の発したコーエマと言う意味不明の言葉が頭に引っかかった。
それっきり二人は帰ってこなかった。
祖母は隆三のコーエマの呪いと言う言葉を思い出し、隆三が若い女に狂って気でも触れたに違いないと嘆いた。そんな話を誰にも言うことができず、一人孫の勇一にだけ打ち明けた。
勇一もコーエマという不可思議な言葉に首をひねった。祖母の聞き間違えではないのかと、何度も訊き直した。
祖母は、ひょっとしたら「コーエム」だったかもしれないだとか、あるいは「怖(こ)ええもん」と言ったのかもしれないと狼狽えるばかりだ。
勇一は、コーエマという言葉を図書館にまで行って調べたが、該当するものはなかった。友人にインターネットで調べてもらってもわからなかった。
大きな笹竹を船に積み込んでいた隆三と友子は一体何をしようとしていたのか。
近所の酒屋で缶ビールを二箱も買い込んだばかりの親父が自殺などするはずがない。 コーエマという言葉に親父が逝った原因が隠されている。勇一は、そう思って調べを続けたが手がかりすら得られなかったと言うことだ。
「さっきお前がつむじ風剛右衛門(かぜのこうえもん)って言うたやろ、ワイにはつむじかぜのコーエマってはっきり聞こえたんやしょ」
「そうだったんですか」
勇一も父が自殺ではないと信じて調べ続けていた。見かけは荒くれだが、親を想う気持ちは一緒なのだ。と、浩也は勇一のイメージが少しだけ変わった。
「勇一ちょっと手伝ってよ」
玄関から女が出てきた。この前、浩也にフリースを渡した女だった。女は浩也に気がつくと慌てて会釈した。
「アネキ、親父は宝探しやったみたいやで」
勇一は鼻で笑ったが目は潤んでいる。
「宝探し?」
勇一からアネキと呼ばれる女が怪訝そうな顔で近寄ってきた。
浩也が話を始めると、女は口元を歪めじっと耳を傾けた。全て聞き終えると女は踵を返した勇一を見た。
「でも、もう終わった話やしょ」
背中を向けたまま勇一はポツリと言って玄関に進んだ。
「ボクはっ、ボクのお母さんはまだ終わってません」
浩也が声を上げる。勇一が一瞬背中を向けたまま止まった。
「もう、生きてるわけないっしょ」
勇一はそう言うとまた足を踏み出した。
とっさに女が勇一に駆け寄って回り込む。
パンッ!
乾いた音とともに勇一の巨体が揺らいだ。
「あんた、なんでいくつになっても人の気持ちがわからんねっ」
女は手を挙げたまま勇一を怖い目でにらみつけた。
勇一が叩かれた頬を片手で押さえたままうつむく。
「行ってやりなさい。この人を連れて精一杯のことをしてやりなさいっ」
女の甲高い声が響く。
勇一は頬を押さえたまま丸めた背中を揺すった。それは、頷いているようでもあり泣いているようでもあった。
ガバチャのひとり言
以前、漁船を持っている知人に何度か紀伊水道に連れていってもらった。
もちろん海釣りにだ。
釣りなのに、釣り竿を持たず船縁からテグス糸を手でもって垂らす。
すると、デカイ鯖が釣れる。ハリがいくつかついているので一度に2匹とか連れるとなかなか上がってこない。
ボクは船に弱いのでいつも酔い止めの薬を飲んでいた。ある時その薬を飲むのを忘れていた。
さぁ釣るぞと始めてまもなく、ボクはおぇ~と吐いてしまった。きたないがボクの吐いたものが撒き餌みたいになって、魚がじゃんじゃん寄ってくる。
ボクは船酔いで何度も吐いた。それでも魚はわんさか釣れる。
途中で「大丈夫か」と船頭さんに気遣われたが、「新しい釣法をあみだしましたと」強がった。
が、ヘロヘロできっとボクの黒目はひっくり返って白目だけになっていたと思う。
写真は和歌山市加太港。
友が島への観光船の船着き場です。
淡島神社寄りの方から北を望んでます。
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小説「神無月の頃」 その5
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浩也は、電車に乗り込んでからも、古びた紙に書かれてある文字や図を解読しようとした。ミミズの這ったような文字は古典の教科書で見たような文字だ。
目を凝らすと「つむじ風」と「金銀宝」という文字だけが読み取れる。
帰宅した浩也はパソコンに向い、インターネットの検索サイトに「つむじ風」と「金銀宝」の文字を入力した。
すると「つむじ風剛右衛門(つむじかぜのこうえもん)の埋蔵金」という項目が検索された。
それによると、つむじ風剛右衛門(つむじかぜのこうえもん)とは江戸時代中期の人物で表の顔は廻船問屋、裏の顔は海賊と言い伝えられ詳しいことはわかっていない。晩年、隠し持っていた財宝を友が島に埋めたとされていた。
これまで盗掘を試みた者は、ことごとくつむじ風剛右衛門(つむじかぜのこうえもん)の呪いによって謎の死を遂げ、数十億円もの金銀宝は未だ手つかずのまま眠っているとのことだ。
そこまで読んだ浩也はパソコンを離れ呆然とした。
浩也にある推測が起こった。
この古い紙は宝のありかを示した古文書に違いない。
父は何らかのきっかけでこの古文書を手に入れ、宝の隠された場所に行く途中で不幸にあった。
その時、母が父の動きや古文書の存在を知っていたのかどうかはわからないが、今度は母が古文書を手にした。
スナック勤めを始めてから客の貴志隆三と言う男と知り合った。
隆三が潜水士だということを知った母は、隆三に近づき宝探しを持ちかけた。
そして、その最中に不幸にあった。
つむじ風剛右衛門(つむじかぜのこうえもん)の呪い、そんな非科学的なことがあるものかと思う一方で、浩也に言いようのない不安が広がった。
母が何処に何をしに行ったのかは、古文書に書かれてある内容がわかれば判然とする。 そして、それは十五年前の父の足取りとも一致するはずだ。
翌日の放課後、浩也は再び貴志勇一を訪ねた。
浩也はどんなことをしてでも、勇一の同意を取り付ける決意だった。確かめるには、船がなければ母の足取りはつかめない。
玄関先に立つ浩也を見て勇一は顔色を変えた。
「ま、またお前かぁ」
「相談したいことがあります」
「なんやとおっ」
この前の長髪とは打って変わって、短い茶髪にした勇一はいつか見た隆三とそっくりだった。
浩也は複雑な気持ちを払拭するように話を切り出した。
「あの日お母さんとあなたのお父さんが何をしに行ってたのかわったんです」
「なっ、なんてぇ!」
さすがに、勇一は驚いた顔で庭に出てきた。
「海の中に埋まった江戸時代の埋蔵金を探しに行っていたのです」
「はぁ、埋蔵金?」
勇一は表情を一転させると笑い声を上げた。押し黙る浩也の前で、勇一はひとしきり笑うと煙草に火をつけた。
「その場所にぼくを連れて行ってほしいのです」
「はぁ」
「私の母は見つかっていません。とにかくその場所に行きたいのです」
「お前年いくつや」
「高校二年です」
「お前テレビかマンガの見過ぎちやうか。だいたい海賊の小判なんて」
勇一は吸いかけた煙草を投げ捨てると、家の中に入ろうとした。
「本当なんです。つむじ風剛右衛門(かぜのこうえもん)って海賊が・・・・・・」
浩也が古文書を振りかざすと勇一の足がぴたりと止まった。
「お前今なんて言った」
勇一は口をあんぐりと開けて振り向くと近寄ってきた。
「はい?」
「お前今つむじかぜのなんとかって、その後なんて言った?」
勇一はゆるり接近すると浩也を見下ろした。タバコの臭いが浩也の鼻を刺す。
「こ、剛右衛門(こうえもん)です」
浩也はしかめっ面で答えた。
「んん、コウエモン、コーエマ。こ・う・え・も・ん。こーえま」
勇一は腕組みをして一人思案を始めた。
浩也には、勇一の仕草が何を意味するのかはわからなかったが、とにかく興味を持ってくれて良かったと思った。
「おい、お前その話ワイにもっとちゃんと話せ」
浩也は、古文書を見せながらインターネットで調べたことを話した。勇一が食い入るような目で聞き入る。
「で、こん紙どこにあったんやしょ?」
さっきまでの剣幕が別人のようだ。
「母のフリースのポケットです」
勇一は腕組みをして黙ると、何か考え込むように空に目を泳がせた。
何かある、と浩也は勇一の言葉を待った。しばらくして腕組みをほどいた勇一の目は意外なほど弱かった。
「実はな、ワイのお婆が出航する前に二人に会ってるんやしょ」
「えっ、それはどこで!」
浩也はうつむいた勇一の顔を食い入るようにのぞき込んだ。
「船着き場や。まあ偶々出会したんやけどな」
「母とはどんなことをしゃべったんですか?」
浩也が詰め寄ると、勇一は花壇の縁に腰を下ろした。
ガバチャのひとり言
和歌山市加太の町並み。以前このあたりにラーメン屋があったんだよな。
今はつぶれたのかありませんが・・。
面食いの・・・いゃ、麺食いのガバチャとしてはぜひ一度食べておきたかった。残念!!
この先の角を曲がって少し進むと一挙に紀淡海峡が開けます。そしてその先の峠に国民休暇村があってそこから見下ろす景色が絶景かな絶景かな。
眼下に友が島が横たわり四国も遠望できます。
夜は車でのデートスポットになります。
ボクも若い頃よく行きました。
えっ、誰とって?
それはミステリーにしておきましょう。
サスペンスじゃなくてミステリーね

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