そこで、隆三と友子が連れだって隆栄丸に乗り込もうとするところに出会した。
隆三は5、6メートルもの長さの笹竹を船に積むところだった。
不審に思った祖母は、駆け寄ってそんな大きな笹竹を持ってこんな夕方からどこに行くのだと訊いた。
だが、いくら訊いても二人は微笑むだけで答えない。
祖母は、夜の海は危険だから止めてくれと何度も頼んだ。
「どうしても行くんなら、勇一を呼んでくるわしょ」
と、祖母はたまらず声を上げた。
「気遣いないわしょ。コーエマの呪いさえなけりゃ極楽の生活さしちゃらあ」
隆三は高笑いすると船のエンジンを駆けた。
祖母は、隆三の発したコーエマと言う意味不明の言葉が頭に引っかかった。
それっきり二人は帰ってこなかった。
祖母は隆三のコーエマの呪いと言う言葉を思い出し、隆三が若い女に狂って気でも触れたに違いないと嘆いた。そんな話を誰にも言うことができず、一人孫の勇一にだけ打ち明けた。
勇一もコーエマという不可思議な言葉に首をひねった。祖母の聞き間違えではないのかと、何度も訊き直した。
祖母は、ひょっとしたら「コーエム」だったかもしれないだとか、あるいは「怖(こ)ええもん」と言ったのかもしれないと狼狽えるばかりだ。
勇一は、コーエマという言葉を図書館にまで行って調べたが、該当するものはなかった。友人にインターネットで調べてもらってもわからなかった。
大きな笹竹を船に積み込んでいた隆三と友子は一体何をしようとしていたのか。
近所の酒屋で缶ビールを二箱も買い込んだばかりの親父が自殺などするはずがない。 コーエマという言葉に親父が逝った原因が隠されている。勇一は、そう思って調べを続けたが手がかりすら得られなかったと言うことだ。
「さっきお前がつむじ風剛右衛門(かぜのこうえもん)って言うたやろ、ワイにはつむじかぜのコーエマってはっきり聞こえたんやしょ」
「そうだったんですか」
勇一も父が自殺ではないと信じて調べ続けていた。見かけは荒くれだが、親を想う気持ちは一緒なのだ。と、浩也は勇一のイメージが少しだけ変わった。
「勇一ちょっと手伝ってよ」
玄関から女が出てきた。この前、浩也にフリースを渡した女だった。女は浩也に気がつくと慌てて会釈した。
「アネキ、親父は宝探しやったみたいやで」
勇一は鼻で笑ったが目は潤んでいる。
「宝探し?」
勇一からアネキと呼ばれる女が怪訝そうな顔で近寄ってきた。
浩也が話を始めると、女は口元を歪めじっと耳を傾けた。全て聞き終えると女は踵を返した勇一を見た。
「でも、もう終わった話やしょ」
背中を向けたまま勇一はポツリと言って玄関に進んだ。
「ボクはっ、ボクのお母さんはまだ終わってません」
浩也が声を上げる。勇一が一瞬背中を向けたまま止まった。
「もう、生きてるわけないっしょ」
勇一はそう言うとまた足を踏み出した。
とっさに女が勇一に駆け寄って回り込む。
パンッ!
乾いた音とともに勇一の巨体が揺らいだ。
「あんた、なんでいくつになっても人の気持ちがわからんねっ」
女は手を挙げたまま勇一を怖い目でにらみつけた。
勇一が叩かれた頬を片手で押さえたままうつむく。
「行ってやりなさい。この人を連れて精一杯のことをしてやりなさいっ」
女の甲高い声が響く。
勇一は頬を押さえたまま丸めた背中を揺すった。それは、頷いているようでもあり泣いているようでもあった。
ガバチャのひとり言
以前、漁船を持っている知人に何度か紀伊水道に連れていってもらった。
もちろん海釣りにだ。
釣りなのに、釣り竿を持たず船縁からテグス糸を手でもって垂らす。
すると、デカイ鯖が釣れる。ハリがいくつかついているので一度に2匹とか連れるとなかなか上がってこない。
ボクは船に弱いのでいつも酔い止めの薬を飲んでいた。ある時その薬を飲むのを忘れていた。
さぁ釣るぞと始めてまもなく、ボクはおぇ~と吐いてしまった。きたないがボクの吐いたものが撒き餌みたいになって、魚がじゃんじゃん寄ってくる。
ボクは船酔いで何度も吐いた。それでも魚はわんさか釣れる。
途中で「大丈夫か」と船頭さんに気遣われたが、「新しい釣法をあみだしましたと」強がった。
が、ヘロヘロできっとボクの黒目はひっくり返って白目だけになっていたと思う。
写真は和歌山市加太港。
友が島への観光船の船着き場です。
淡島神社寄りの方から北を望んでます。
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