鮎釣り師ガバチャのひとり言

釣りあげた鮎で仲間と酒を飲む   これ人生のユートピア!


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     15年ほど前、徳島市の津田と言うところで4年間暮らしたことがある。
     木造平屋の古い社宅だった。

     入居した数日後、夜中犬の鳴き声がするので見たら軒下で野良犬が子供を生んでいた。その数日後、今度は倉庫で猫が鳴くので見たら子供が生まれていた。すごいところだと思った。

     家族四人で夕食を食べていたら家内が突然悲鳴を上げる。見たらボクらの周りをネズミが走り回っていた。
     ある日、買ってきたばかりのまんじゅうと食パンが忽然と消えていた。それが押し入れの中でかじられて発見された。

     ぼくはただごとではないと、ホームセンターに行き超音波式ネズミ撃退機を買った。だが、いっちょも効いた感じではない。コードが抜けてないか確かめに行ったらコードがかじられて切断されていた。屋根裏は連日ネズミの運動会である。子供は二人やんちゃな盛りで、ボクは賑やかでよかろうとむしろこんな生活を楽しんでいた。

     共働きをしていたのでボクが子供の迎えに保育園に行くことがあった。
     七夕が近く笹の葉に綺麗な飾り付けがしてあって、お迎えの奥さん方が談笑している。笹の葉の短冊には、子供が大きくなったときになりたいものを子供から訊いて先生が書き留めてものが結ばれていた。

     ケーキ屋さん、野球選手、ウルトラマンなどと子供らしいことが書かれている。
     ボクは息子の短冊を探した。あった、と見つけて絶句した

    「大きくなったら大きなネズミになりたい」
     と書かれてある叫び 先生が苦笑しながら、何度聞いても大きなネズミになりたいと言ってきかなかったという。そばにいた奥さん方も大爆笑だ。

     ボクは赤面したまま背中を丸めて息子の手を引いた。

     それから一年たってまた同じ七夕の季節がやってきた。
     迎えに行ったボクに昨年のワンシーンが去来する。

     またなんかへんなこと書いてんじゃないのかと思っても見ないわけにはいかない。
     と、若い先生が寄ってきて「今年は良かったですよ」と笑顔で笹の中から息子の短冊を見せてくれた。

     そこには「大きくなったら大きなおさるになりたい」と書かれてあった。
     うぇ~と声を上げると、そばにいた奥さん方がまた笑う。

     だが、よくよく考えてみると、一年でネズミから直立二足歩行のお猿さんにまで進化したのだ。
     この速度だったら来年はきっと人間になってるぞ、と頼もしく息子の手をひいて胸を張って保育園を後にした。

     ボクにとっては宝物のような想い出である。
    音譜



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     ボクが就職して社会に出た夏、職場のKさんが河原でレクを開いた。
     場所は紀ノ川の船戸橋の下。Kさんはその時既に60歳近かった。

     河原に大きな竹カゴが逆さに置かれていて、それを取ると鮎の塩焼きがずらりと並んでいた。横の大鍋には何十匹ものズガニが真っ赤にゆでられている。家族連れらで30名程いただろうか、鮎もカニもこんなに旨いものかと舌鼓を打った。

     酔ったKさん、ボクを指名しタテ網の片方を持たせて紀ノ川に入っていく。タテ網を仕掛けると直ぐに鮎が掛かった。
     Kさん、とれたばかりの鮎の内臓を取って梅干しをつぶした梅肉を鮎の腹に詰め込んだ。

    「これが紀ノ川の通の食べ方やして。そのままかじれっ」と言う。
     ボクが躊躇するとKさんがにらむ。ボクは仕方なくかぶりついた。
     正直まずくてどうしようかと顔をしかめたが、皆が拍手するので我慢して最後まで食べた。

    「ん、お前は若いけど素質がある」とKさん上機嫌。
     今度は一緒にとれたナマズの蒲焼きを喰えという。これは旨かった! ウナギの蒲焼きと味は一緒だった。

     それから十数年経って、ボクはKさんと鮎釣り師になって再会した。
     目を細めるKさん。ボクは年老いたKさんに毎年釣った鮎を持って行った。
     Kさんはボクに釣りベストを買ってくれた。これを着て船戸橋の下で釣れと言われたが、釣友と有田川に通い詰めてつい行きそびれてしまった。

     有る年の晩秋、久しぶりにKさんに鮎を持って行ったら寝たきりになっていた。
     ボクがそばに寄ると目を向けて何か言うが、何を言っているのか分からない。Kさんは直ぐにまた寝たような感じになった。

     意識が戻ってあんたのことわかったみたいやして、と奥さんが声を詰まらせる。
     Kさんはその一週間後に帰らぬ人となった

     鮎ももう掛からなくなった肌寒い日。Kさんからもらったベストを着て船戸橋の下で竿を出す釣りバカを、橋上から何人かが笑いながら眺めていた。

     約束は守るから約束で、守れなければ約束とはいえない。
     ボクはせめて一匹でもと鮎竿を繰った。





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