鈴木民芸品を出ると既に陽が傾いていた。



「やっぱりユウコのお父さんはすごいわ」
「あのおっさん何者やねん。ただの鑑定士やなしに学者みたいやんか」 
 勇一が助手席に身をうずくめたまま言う。



 リエの話では関東の有名国立大学で数年前まで研究員をしていたそうだ。



 車が国体道路に差し掛かかると、渋滞に巻き込まれた。



 間違いなく母と隆三は宝探しに船を出した。



 十一月五日、加太の漁港を出航した二人は、いったん友が島に上陸してかがり火を焚いて離島し船を南進させた。
 そして、和歌山城に神無月が乗ったところでエンジンを止め、錨を降ろそうとしたところで何らかのアクシデントに遭遇し海に転落した。



 予定通り事が運んでいれば、付箋にあった六日後の十一月十一日に潜水して宝を探すことになっていたのだろう。



 浩也の頭の中に、その日の情景がうっすらと浮かんできた。



 浩也はとにかく母と同じ経路を辿りたいと思った。
 同じ行動を取れば、母の手がかりが得られるかもしれないし、母の気持ちもわかってくるような気がした。



 母だけでなく、十五年前海に散った父の事も同様にわかるのではないのか。浩也はじっとしていられなくなった。積もっていた焦燥感が、古文書の解読によって一挙に加速した。後は船を持っている勇一に頼るしかない。



 浩也は勇一が言葉を発するのをじっと待っていた。



「で、どないすんやしょ?」
 勇一が振り返る。



「ぼく明日学校休みます」
 浩也は待ちかまえたように答えた。



「明日船出せってかよ」
「昼間に下見が必要です」



「私も行くわ」
 リエが運転をしながらポツリと言った。



「アネキ、大丈夫なんか?」
 勇一が身を起こして訊いた。



「久しぶりやし。船に乗りたいんや」
 勇一はリエの方をジッと見ると、また背中を丸めて座席に身を沈めた。



「じゃあ九時やな。朝の九時に西脇漁港に来いや」

 二週間前に父親が死に至った経路を辿るのは、複雑な心境だろう。

 勇一は自分のために付き合ってくれているのだろうか。それとも、数十億円もの財宝が気に掛かったのだろうか。リエはどうなのか。

 大金は人間の行動原理をあっさりと支配してしまう、といつか読んだ本を思い出した。大金のために衝動的殺人を犯してしまうことなど日常茶飯事なのだと。

 父や母が大金に目がくらんだとは思いたくないが、このことが原因で不幸にあったのは事実だろう。

 ふと、浩也はあることに気づいた。

 まさか・・・・・・。

 隆三や母が誰かに殺められた可能性だってあるのではないか。

 同じ宝を探していた者がいないとは限らない。
 昨日までは自分しか知らなかった宝の地図を、今は自分以外の四人もの人間が知っている。それも自分とは顔見知りでも親しい人間でもない。

 昨日今日出会った人間たちばかりだ。数十億円もの大金を前にしたらどのようなことになるのかわからない。

 勇一やリエが何を考えているのか、白髪男やユウコは見たとおり善人なのか。

 浩也は唇を噛んだ。


 翌日、浩也は西脇漁港に向かった。

 勇一は既に隆栄丸に乗り込んで出航の準備をしていた。隆栄丸は、所狭しと並ぶ漁船の中でも大きい方で定員五名とある。

 船体周囲には車のタイヤが取り付けられてあり、中央からやや後方にガラス戸の付いた小さな操船室があった。

 そこから船尾にかけてはテント生地が屋根のように張られている。操船室の両側から長いアンテナのようなものが数本立っており、小さな旗が巻かれていた。

 浩也は、これが母が最後に乗った隆栄丸かと胸が締め付けられる思いになった。

 勇一が、顎をしゃくって浩也に乗船を促す。リエが躁船室から顔を覗かせ会釈すると、忙しそうにロープをたぐり始めた。

 この姉弟は小さい頃から隆三に連れられてこの船に乗っていたのであろう。

 浩也は隆栄丸に飛び乗ると、船縁にしゃがみ込んで木造の船体を撫でた。木製の船縁は朽ちた表面が丸みを帯び、その上に塗られた白いペンキが塗りたてのような光沢を放っている。

 隆栄丸は突如大きなエンジン音を発した。下腹に響くエンジンが体内の血液まで揺さ振ったのか、浩也の顔が紅潮する。

 船はゆっくりと離岸すると、鏡のような水面に波紋を広げて滑り出した。

 港を出て視界に外洋が開けたかと思うと、船は舳先を友が島に振って速力を上げた。

 青い海と空の間に、島とは思えないほど大きな淡路島が居座っている。その左手へと伸びる水平線は地球の曲率をくっきりと表していた。

 海原を半時間ほどつききると、隆栄丸は友が島の南側に達した。

 友が島は、西側の沖の島と東側の地の島の二つの島から成り立っている。南側から北側に位置する両島を望むと、向かって左手に沖の島、右手に地の島がある。沖の島の方が少し大きい。お互いが隣接する側は、沖の島が奥の方に引っ込み地の島が前面に出っ張っている。

 船の位置を右手の地の島側に進めるほど、両島が接近するように見えてくる。

 隆栄丸は、スピードを緩めてまず沖の島の東端へと接近した。

 目の前に、沖の島の断崖が落ちてきそうに迫り上がっている。
 断崖からの返し波が隆栄丸を繰り返し突き上げる。
 不気味なほど青澄んだ海水は、競り合う大岩にぶつかって轟々と白く砕けていた。

 隆栄丸を塩辛い気泡が包む。もはや立っていられない。浩也は、塩辛い唇を舐めるとしゃがみ込んだ。

「お、おいっ!」
 勇一が目を剥いて断崖の一角を指さした。

 その方向には、生い茂る樹木を突き破って巨大な岩が東に剥き出ていた。その岩にしか気付かない浩也に、勇一ほどの驚く顔は現れない。
 しかし、目を細めてじっと岩を望んでいたリエまでもが、驚きの表情に変わった。

「鉄筋やあっ!」
 勇一の大声が風に流される。

 船が波で押し上がった時、浩也の目に鉄筋でつくられた冷蔵庫ほどの箱形の物体が見えた。その中から何本かの黒い木の燃えかすのようなものが突き出ている。

 三人は交互に顔を見合わせた。
 これがかがり火なのか。無人島に不自然に置かれた人工物。
 古文書の山立てのことを知らぬ者が見かけても、全く見当などつかないだろう。

 つくったのは隆三か、それとも十五年前の自分の父なのか。火をつけたのは母なのか。
 かがり火の根拠を目の当たりにして、隆三や母が宝探しをしたということがいよいよ現実味を帯びてきた。

 三人は波に突き上げられながら呆然と鉄筋籠を眺めた。




ガバチャのひとり言

 西脇漁港はガバチャの自宅から自転車でも行けるくらいのところです。
 ちょうど今頃の季節から、たくさんの漁船が出てイカナゴ漁が行われます。

 イカナゴのクギ煮は全国的な食品ブランドになりましたね。
 あれでビールをやると最高なんだよな
にひひ


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超燃える鮎友釣り もヨロシクグッド!

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