私は駐車場から道路を横切り、病院の玄関へと続く階段で父を振り返った。
父は妹のマユミに腕組みをされてやっと歩いているという風だった。
その傍らで母が心配そうな顔で父を見守っている。
マユミの手は父の手をしっかりと握ってはまたさすることを繰り返していた。
私たち家族四人がそろったのは何年ぶりだろう。
15年ほど前に祖母が亡くなった時以来かもしれない。
ただ、その時は親族一同が集まっていたので
このように家族四人だけがそろって歩いたというのは私には物心ついてからは記憶にない。
ひょっとしたらマユミがまだ保育所に通っている頃にあったぐらいではないだろうか。
初詣の村の神社で
小学低学年の私が先頭を切って石段を跳ね上る。
振り返ると、父に手を繋がれた小さなマユミが自分の足でようやく階段を踏み上がり
その横で母が相好を崩しているというシーン‥‥‥。
私はいつしか家族四人の尊い記憶をたどっていた。
それから半世紀もの歳月は矢のように流れる。
私たち四人は診察室に入り父の病状について医師から説明を受けた。
端的に言えば打つ手なし、である。
もう父の体は水さえも口から取ることを受け付けないのだ。 看護師に付き添われて車いすで入院病棟に上がろうとする父に母はか細く声をかけた。
「あんた頑張りよ」
父はうつろな目でコックリ頷くとエレベーターの中に消えた。
マユミは今度はうなだれる母の小脇を抱えて私の後ろをとぼとぼと歩いた。
私たち家族の願いは一つ。
父に奇跡が起こってくれること。
今はただ……
今はただ……
それしか残されていないのである。




