今朝の貴志川の柳生橋の下手です。
(貴志川から花園に抜けるときに渡る橋)
1628803022319.

 
 あれは・・・

 今62歳の私が和歌山に転勤してきた35歳の年でした。
 職場のレクで紀の川の支流貴志川のかじか荘の前で皆で水遊びをした時のことです。

 家族連れで総勢30名ぐらいが芋の子を洗うように川に浸かり水遊びに興じました。

 子供たちの歓声。狭い空には太陽がさく裂しています。
 遠雷は気になるほどのものではありませんでした。

 やがて何やら放送が聞こえてきます。
 近づいたのは小さな消防車でした。

「約一時間後に鉄砲水が来ます。ただちに避難してください」
 私たちは驚きました。

 こんなに良い天気で川の水は減水でほとんどありません。
 こんな状態でホントに鉄砲水なんかが来るの?

 と、誰もが信じられない様子で水遊びを続けました。
 たまらず課長が声を上げて子供ら全員をすぐにかじか荘の高いところまで避難させます。

 私たちは河原にあった荷物を順次引き上げました。
 が、重たいものは大変なので河原の一番端の高いところに置いていきました。

 河原では他の家族連れらがバーベキューを始めたばかりで消防隊員ともめていました。

 ここなら大丈夫だろうだとか、鉄砲水と言ってもここまで来たら大したことになってないだろうだとか。

 要するにこの良い天気で鉄砲水と言われてもリアリティがないのです。

 そこに上手から現れた一台のワンボックスが横付けで止まります。
 運転席から血相を変えたオジサンが顔を突き出しました。

「早く上がれー。ワイら死にかけたんやから。ホンマに来てるでスゴイ鉄砲水が!」
 それを聞いてもめていた人たちもみんなしぶしぶ荷物を片付けて上がり始めました。

 かじか荘の高台に皆で腰を下ろして河原を見ながら雑談です。
 もうそろそろかと言う時間になった時に誰かのアッー! と言う大声が響きました。

 私はこの時に初めて鉄砲水と言うものを見ました。

 上流から押し寄せてくる土色の濁流はそれまでの川面と1メートル以上の段差を付けて盛り上がり、モクモクと様々な流木やゴミを混ぜ込んでいます。

 それは徐々に水嵩が増えて濁っていくというものではなく、川は完全に上手と下手に境を付けて二極分化されそのコントラストの違いが我々に自然の畏怖さえ覚えさせます。

 河原の端っこ置いていたテントや荷物なども一挙に押し流されてしまいました。

 ゴーッと鼓膜を震わせる音。
 先ほどまでの清らかな貴志川とは一変した別世界な濁流だけが眼下に広がります。

 誰もが鉄砲水の凄さに圧倒されて目を剝いたまま閉口しました。

 上流の高野山で局地的な豪雨があったようです。

 貴志川はいわば溝のような構造で河原が狭く増えた水の容量を逃がすキャパシティがない。
 だから一挙に水嵩が上がるんや。

 と、前にも一度別の川で鉄砲水を見たことがある課長は、ひとり言のように呟きゴウゴウと押し流れる眼下の濁流に目を落としていました。

 私は今でも貴志川で竿を伸ばす時には、あの時の事を忘れずに鮎釣りをやっています。
 皆さんもお気を付けください。


今朝の柳生橋の上手

有田川のダム上はまだしばらくかかりそう。