鮎釣りの解禁日に強い風が吹いた。
河原へと降りるあぜ道で、ふと雑草の中にまみれた小さな花が目にとまる。
いつもなら気にもとめない花なのに、なぜか鮮やかに見えた。
強い風が吹かなければ目にはとまらなかっただろう。
花にとっては化外(けがい)の地ともいえるスケール。
なのに、風のざわめきを楽しんでいるかのように誇らしげに揺れている。
たじろぐことなく、ちゃんと春を知って凛と咲く姿に一瞬心がほころんだ。
3.11以降、どこか違う世界に生きているような感覚を覚えていた。
塞ぎ込んだままでは心配をかける人がいる。
楽しくしていれば安心してくれる人がいる。
ぼんやりとした煩悶の中、できることから少しずつちゃんとやっていこう、と前を向いたばかりだった。
大げさかもしれない。
がしかし、この草花が「生とは何か」をいみじくも問いかけているように思えた。
果たして、使命感とは単なる本能なのだろうか。
ないまぜな悲喜に向き合い続けているのは人間だけとは限らないのではないのか。
自分らしさを取り戻してみよう。
そう思って、釣り竿を肩にあぜ道を駆け下りた。
腰を落として早瀬を渡ると、にわかに風が緩む。
若鮎のライズが冷たい水をはじいた。
川面には春というよりかはむしろ初夏に近い匂いが立ちこめている。
ボクは石裏のよどみに脹ら脛まで浸かると、新緑に競り囲まれた狭谷を見上げ鮎竿をゆっくりと伸ばしていった。
今日はおもいっきり釣ってやるぞ、と。
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