地名は伏せよう。
 二十年ほど前、和歌山県のとある岬に友人4人でクエ鍋旅行に行った時のことだ。

 開宴に唇のぶ厚いクエかと思われる中年仲居が現れた。
 鍋も煮たり宴もたけなわ、小皿もチントテ鳴りやまぬ頃。頬赤らめた仲居が、「実はあたし妾の子なんよ」とポツリ言った。一同クエさま、いや、仲居さまの方を振り向く。

 仲居は時折声を詰まらせながら、不遇な身の上をつむぎ語った。ゴーゴーと岬に立つ鄙びた宿を風が打つ。お父さんに会いたい、その一心なリアリズムが4人を圧倒する。母から聞かされた父の具体的な仕事の話に及んだ時、首をしきりにひねっていたYさんが顔を上げた。

「そ、それって○○さんとちゃうんか」
「ええっ! 知ってはんのん」
 と、仲居のクエぐちがパックリと開いた。

 まさか・・・・・・。
 世間は狭い。

 後日、Yさんからその話を聞かされた○○さんは、はばからず嗚咽したという。よわい七十の○○さんに、彼女との想い出が深々と去来したのだろう。

 ボクは思った。
 結ばれた絆とは、ただ結ばれているだけでなくいつかたぐり寄せるためにあるのではないのかと。





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