ここでは仮名でミキと呼んでおこう。

 私は20歳の頃、阪神タイガースのキャンプ地だった
 安芸市に祖母と二人で家を借りて住んでいた。
 
 ある日

「ミキちゃんが来たぞね」
 と祖母が玄関先から意外な声を上げる。
 ミキってあのミキかいな‥‥‥?

 現れたのはセーラー服姿のミキだった。
 私が前に会ったのはまだ小学3年生のミキだ。
 えらくベッピンさんに育ったもんだ。

 思い返せばミキが小学3年生当時の私は高校2年生だった。
 村の夏祭りではバンドのリードギターとして一番のチビなのにデンデケ頑張っていた。
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 そして村の教育委員会から依頼されてプールの監視員としてバイトをしていた。

 夏休みの毎日、私がプールのカギを持ってその運営を任されている。

 10時になると近所のガキどもが水泳パンツ一丁で浮き輪をしたまま家に押し寄せてきた。

「監視員のお兄ぃ、早く開けろー」
 その大合唱の急先鋒がミキなのだ。

 私は寝っ転がったまま窓から顔を突き出し
「今日は雨やから開けんのや。帰れ帰れ」
 と子犬でも払うようにシッシと手を振った。

「えー? ほんならお兄ぃのところで遊ぶ!」
 と、言うが早いかミキが一番乗りで水着で浮き輪を腰に巻いたまま家に上がってくる。
 他の子分の男の子らもワンワン後に続く。

 家の中はわやくちゃだ。
 しばらくすると雨が上がって太陽が出る。
 また、プールを「開けろ開けろ」の大合唱だ。

 そのミキがこんなに大きくなってみょうにおしとやかになって
 なんか狐にでもつままれたみたいな感じ。

 まぁ上がれや、と散らかった部屋に案内した。

 ミキは中学を卒業して安芸市の高校に来ることが決まり、今日はその準備の買い物に村から出てきたということだ。

 一緒に来ていた両親は一足先に帰ったのだが、ミキは私が安芸市に下宿しているのを知って訪ねてきたらしい。

 コーヒーでも飲むか、と居間に行ったら祖母がいない。
 どこに行ったのか、と私は仕方なく自分でコーヒーを入れてミキに持って行った。

 ミキは私のたくさん積み上げていたレコードに興味を持ったらしく、一枚一枚手に取って見ている。

「ミキは誰の歌が好きなんや?」
「あたし最近出た荒井由実って人の歌が好き」

「ほぅなかなかナウいな」
「それから古いけど小坂明子のあなたって曲も好き」

「ああ、あれはいつまでたってもいい曲やね」
「あたしあんな結婚に憧れる」

「えっ‥‥‥」
 私は返す言葉に詰まった。
 セーラー服のミキが結婚だなんて言葉を急に言い出すなんて。

 私はやおら立ち上がってレコードをかけた。
 明るい曲がイイだろうとイルカのエルピーをかける。
 クジラのスーさんって曲を面白いとミキは喜んでくれた。

「荒井由実の曲はカセットに入っているんや」
 とカセットのスイッチを押してあげる。

 ミキはそれを聴きながら傍らに散乱していた雑誌を手に取った。
 プレイボーイだとかGOROだとか。
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「ミキ、それはあんまり見るな。お前には刺激が強い」
 と言ってもミキはお構いなしにページをめくり苦笑いの流し目で私をチラリと見る。

 するとしばらくしてウワァと小さな歓声を上げた。
 ドキッとして次の言葉を待っていると

「ほら、三つ目がとおるが載っている」
 ミキが小3のあのプール騒ぎの時に一番好きだった漫画だ。
 とにかくこの手塚治虫の三つ目がとおるが大好きでミキは何度も何度も読んでいた。

 プールを開けないある日、いつものようにガキどもが私の家で大騒ぎしている最中
 私がベットで転がって本を読んでいると、水着のミキが私の横にくっついて寝そべって
 三つ目がとおるを一生懸命私に読んでくれたことがあった。

 わからない漢字があると
「ねえねえ、この漢字何て読むのん?」
「そんけいだよそ・ん・け・い」

「意味は?」
「意味ぃ? え~と‥‥‥まぁミキが大人になったらわかるわ」
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 そんな話をするとミキは思い出したのか体をしゃくって笑い始めた。
 柱時計が鳴る。

「ミキ、バスの時間は?」
 あーっと言ってミキは立ち上がった。

「Fくんありがとう。楽しかったわ」
「ああ、オレも久しぶりにミキと会えてよかったよ」

「また来てもいい? 4月になったら毎日バスで高校に通うから」
 なんとなく、来月から自分は就職で和歌山に行くとは言い出せなかった。
「あぁ」と小さな生返事だけ返した。

 ミキは玄関を飛び出すと庭の真ん中でヒラリと振り返る。

 長い髪を夕風にサラサラとさせながらバイバイと手を振り
 首を一寸傾けてウインクを投げかけた。

 ミキのおませは変わっていない。
 と私は口元を緩めた。

 それから次にミキと会ったのは5年後だった。
 私が和歌山から今の家内を連れて結婚祝いのお返しにミキの家を訪れた時だ。

 ミキは大学生でなんと結婚をしていた。
 やはりミキのおませなところはいくつになっても変わっていない。

 私は和歌山に就職していなければ、おそらくこのミキと一緒になっていたような気がする。

『あの日にかえりたい』(あのひにかえりたい)は、荒井由実(現:松任谷由実)の楽曲で、6枚目のシングル。1975年10月5日に東芝EMIからリリースされた。規格品番:ETP-20174。1989年12月21日にCDシングルとして再リリースされたが、1987年発売のベスト盤『YUMING SINGLES
8キロバイト (788 語) - 2021年11月12日 (金) 07:04






つかさ
@ktsuaksa

50年前の荒井由実さんのアルバム4枚をヘビロテしている。あんな曲を演奏したい。ボサノバがいいなぁ。「あの日に帰りたい」とかですね。

2021-12-02 09:15:26

(出典 @ktsuaksa)

つぶまめ
@trpRxyvKaV3aQTT

あの日に帰りたいって荒井由実時代だよね

2021-12-01 16:34:29

(出典 @trpRxyvKaV3aQTT)