その昔。
 
 年老いた剣豪、塚原卜伝(ぼくでん)は山奥に隠棲していた。
 そこへ血気盛んな宮本武蔵が訪れる。

 若き武蔵は訪れるなり卜伝に向かって木刀を振り下ろした。
 パシーンッドンッ。

 食事の支度でいろり端に座っていた卜伝は鍋のふたで武蔵の剣を受け止めると「ふふ、まだまだ青いの」と一言。
 武蔵が「先生、弟子にしてください」と土下座すると、ふすまががらりと開いた。

 割烹着を着た女性が現れすまし顔で卜伝の頭をシャモジで小突く。
 いてぇあせる、と卜伝叫び

 あっけにとられる武蔵。
「あんた芋汁炊くのにいつまでかかってんの、またちゃんばらごっこして遊んでたんでしょう、いい加減にしなさい」

 あっけにとられた武蔵は方向を変えてその女性に向かって「で、弟子にしてください」 と頭を畳にこすりつけたという。

 今年の夏。

 若者がボクのすぐ横に竿を構えた。
 力任せに竿を繰る若者。

 対照的に静の構えでゆっくりとおとり鮎を泳がせるガバチャ。
 と、ガバチャの竿がバツンッと微震した。

 同時に、水中糸の赤い目印が上流にぶっ飛ぶ。
 竿がギイギイと折れんばかりにしなる。

 腰を落として踏ん張るガバチャ。
 ハリに掛かった野鮎が水中でもがく。

 満身で竿を持った両手を頭上に掲げると、丸々とした巨鮎が水面を蹴散らして猛スピードで飛んできた。

 素早く腰からタモ網を引き抜きキャッチの体勢。
 ドス~ンッ爆弾
 ものすごい勢いで掛かり鮎がタモ網の底を突いた。

 とっさに駆け寄る若者。
「ガバチャさん、弟子にしてくださいっ」

 と、携帯電話のエクソシストのテーマが鳴るえっ
 家内からの着信音だ叫び

「ああたー、まだ河原ぁメラメラ いったい何時まで釣ってんのむかっ 早よ帰ってきいや。あたし今日腰痛気味なんやから子供らに晩飯つくってあげてよね。そうそう帰りに今朝のチラシにあった安売りのタマゴと豚肉と、それから一人二本までのキッコーマンの醤油買ってきて」
「あはい」ガーン

「あぁそれから、カットフルーツとハーゲンダッツのアイスクリームのイチゴ、とオークワのクリーニング屋によって一昨日出した服とってきて。わかったぁ」
「あはい」ガーン

 ブチッ。
 家内の携帯から漏れる大声にきょとんと耳をすましていた若者。

「ガバチャさん、き、今日はもう納竿です、か」
「聞こえてたらわかるでしょ」むっ

 鮎釣り界の塚原卜伝(ぼくでん)もかみさんにはかなわない走る人あせる




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